『五元集』 冬 の 部  へ|へ|へ(只今未整理増補中)

   芭蕉翁十三回
  辰霜や鳳尾の印のそれよりは

   宝永三戌十一月廿二日 妙身童女を葬りて
  霜の鶴土にふとんも被されす

  神無月ふくら雀そ先寒き

 

高砂や禰宜の湯治の神無月

  玉津島にて
御留居(守、脱カ)に申置也かみな月

  高野にて 十月三日
卵塔の花表やけにも神無月

鷺からす片日かはりやむら時雨

あれきけと時雨来る夜の鐘の声

時雨ゝや葱台の片柳

  芭蕉翁三回
しくるゝや此も舟路を墓参
帆かけ舟あれや堅田の冬けしき
  遊金閣寺
八畳の楠の板間をもるしくれ
蓑を着て鷺こそ進め夕しくれ
  大和めくりせし比
むら時雨三輪の近道たつねけり
芭蕉翁病床
吹井より鶴をまねかん時雨哉
釣柿の夕日そか(にカ)はる北しくれ
飼猿の引窓つたふしくれ哉
時雨くる酔やのこりて村霽
  しくれもつ雲の間にあへ酒の間
  とたはふれし人にこたえし也
  当麻寺おくのゐんにて
小夜時雨人を身にする山居哉
当院に霊宝什物さま_多し
中にも小松との法然上人へま
  いらせられし松かけの硯あり
  箱の上に馬蹄とかきて硯の
うみの形容とす
松陰の硯に息をしくれ哉
  世尊寺よりにしかうの滝を
   見やりて
三尺の身を西河のしくれ哉
  本多総州公に侍座しける夜
  むら雨とひとしくかうほりの
  鳴たるを発句せよと仰られしに
蝙蝠や柱を捻たる一しくれ
守山の子にもりを茸時雨哉
三か月のおくらき程に玄猪哉
  東には祗園清水とうたへは
楊弓に名のる女やかみな月
神の旅酒匂は橋と成にけり
家々の留守居よる也大社
  大和めくりし(ママ)せし此
たかとりの城の寒さやよしの山
使者独書院へ通るさむさ哉
  井波門主応心院殿
   ありそうみとなみ山の二集
    ゑらみ給ふに 御所望
凩や沖より寒き山のきれ
  何かしの家にて
  御流頂戴のことふきに
紅葉の下部もあらんゐのこ哉
玄猪とや祖父のうたふ枝折萩
くろの者代々のゐの子に帰花
つみ綿に兎の耳を引たてよ
  大町新宅
水仙や_(鉋)ついての小島台
水仙に猶分行や星月夜
凩に氷るけしきや狐の尾
捨人やあたゝかさうに冬野行
  父か医師なれは戯に
_汁に又本艸の咄かな
河豚あらふ水のにこりや下河原
何よけん藻魚はた白冬肴
表戎十九日から見へぬ也
  大黒のうせたる家にて
酔さめて大黒出ん夕ゑひす
まな板に小判投けり夷講
  糸屋十右衛門宅にて
嵯峨山や都は酒の戎かう
人妻は大根はかりを_汁
打鎰に_もゑひすの笑哉
生煮をふくといふ也ふくと汁
世中に舅をよふやふくと汁
日本の風呂吹といへ比叡山
  ふけゐの浦打めくりて
_ひとつとらへかねたる網引哉
  幻住菴にて
雑水の名ところならは冬籠
蕪汁や霜のふりはも今朝は又
  宗隆尼みまかり給ふ年
  千那にくして堅田へ行とて
婆に逢にかゝる命やせたの霜
蜑の刈蕪おかしや見るめなき
秘蔵かる鍋のかるさや筑摩汁
_汁や祝言のこす能戻リ
かへり花それにも敷ん莚切
柳寒く弓は昔の憲清也
  霊山のみちにて
かまきりの尋常に死ぬ枯野哉
生島新五郎上京に
鉢の木の扇笑ふなかへり花
  野の宮のやふかけに
   わひしき槌のおとしけるに
鍬鍛冶に隠者尋ん畑の霜
  淀にて
初霜に何とおよるそ舟の中
しはらくもやさし枯木の夕附日
  園城寺にて
からひたる三井の二王や冬木立
凩や勢田の小橋の塵も渦
  芭蕉翁を見送りて
冬枯をきみか首途や花曇
石菖の露のかれ葉や水の霜
  加生のつまの心つかひを得て
縫かゝる紙子にいはん嵯峨の冬
むかしせし恋の重荷や紙子夜着
起出て事しけき身や足袋頭巾
寐心やこたつふとんのさめぬ中
紙子着てくゝり頭巾もみそし哉
  長途狂倡吟
紙子きて渡る瀬も有大井川
目はかりを気まゝ頭巾の浮世哉
山鳥のねかぬる声に月寒し
何となく冬夜隣を聞れけり
此木戸や鎖のさゝれて冬の月
閑さや二冬なれて京の夜
  新宅 二句
竹の場の小庭成へし炭俵
鼠にもやかてなしまん冬籠
  遠水三十五日に
おほふ哉さまさぬ袖を納豆汁
  霜月朔日の例を
諸人を嵐芝居を冬籠
  好柳か市店
人を見ん冬のはしゐも夕涼
顔みせや暁いさむ下_の橋
  朝叟老父七十の賀に
白河の波をかゝはや桐火桶
  幡州たち野に一僧のすき
  あり六十年の栄花を誹
  諧にきはめて終りを取
  侍ることに我をしたへる
  よし聞え侍るにいたみ
粟飯の焦て匂ふや霜の声
   法雲寺老僧春色と聞へたり
源氏もや季吟の家の夷講
さひしさは独我住ほいろ哉
螻の手に匂のこるや霜の菊
捨人の為の切とて火打哉
鬢の霜木賊のひと夜枯にけり

蕗のとう其根うへをけ冬構
  蚫のうつせ貝を盃にして都鳥
  と名付たるによせて
炭売は炭こそはかれみやこ鳥
柯求老人の手向
山茶花や独もれたるお盛物
海へ降あられや雲に浪のおと
みかゝれて木賊に消るあられ哉
  山行
山犬を馬か嗅出す霜夜かな
みそれにも身はかまへたり池の鷺
  寒芦画讃
あな寒しかくれ家いそけ霜の蟹
氷にも盞とちよ鴛の中
  住吉にて
芦の葉を手より流すや冬の海
  周防とのは才ある人にて政
  事行るゝに一生非なしひなき
  をめてゝ板くらとのと申とかや
  この中よりやけたる銭を
           ひろひ出て
火燵から青砥か銭を拾けり
  片手打落したる火鉢を幸の
  ものかなとて
忠度と灰にかゝれし火鉢かな
  名もたゝのりといふへしこれに
  対して
炭とりに鏡のぬけし手樽哉
  三年成就の囲に入
炉開や汝をよふは金の事
  炭竈
炭やきの独そあらん釜のきは
炭かまや鈴木亀井か軒の松
炭うりや朧の清水鼻を見る
炭竈や煙をぬけは猿の声
かたすみも其木葉より発りけり
うつみ火の南をきけやきり_す
埋火に芋やく人は薫す
炭屑にいやしからさる木のは哉
とてもならかの一車とのゐ炭
  寒蠅炉をめくる
憎まれてなからふる人冬の蠅
口切や袴のひだに線蘿葡(蔔)
  梅津某秋田へ発駕を
  粕壁の宿まて送侍て
こゝに呑座敷しつらへ網代守
  閑居安慰
へら鷺の灯を残さぬや灰せゝり
  山中 高客
衿巻の松にかゝるや三穂の海
並蔵はひゝきの灘や寒作り
十石は鴛につく也れうあん寺
冬川や_のすはる艸の原
  閑倚橋
うすら氷や鎧長なる橋柱
滝幅や氷の中にゐさり松
鯉一つあしろの夜のきほひ哉
煮凍や簀子の竹のうす緑
  対友
内蔵の古酒をねたるや室の梅
  市隅の侘人に
宮藁屋はてしなけれは矢倉売
  揚屋の外辺に鳥うるもの
  鴨の毛を引を見て
鴨の毛や鴛の衾の道ふさけ
心をや筌にゆらるゝうら千鳥
浦鵆さこそ明石も大神鳴
網代屋にところてん屋の古簾
塩担子や投てたゆたふ磯鵆
よき日和に月のけしきやむら鵆
妹か手は鼠の足かさよちとり
  薩_山にて
汐汲の猪首も波のかもめ哉
珍しき鷹わたらぬか対馬舟
京なる人に案内して
ゑほしきた船頭はなしみやこ鳥
滝口やおもひ捨ても池の鴛
人丸講 月次に
沖の帆も十はたみそや浜千鳥
両国橋上 二句
暁の筑波にたつや寒念仏
寒念仏橋をこゆれは跡からも
酒飯の飲酒はいかに寒念仏
  去来家にて
千鳥たつ加茂川こえて鉢扣

こと_くね覚はやらし鉢扣
  南都にあそへる時
寒声や南大門の水の月
  ひたち帯のならはしなと
    おもひよせ侍りて
たれとたか縁組すんて里神楽
夜神楽や鼻息白き面の内

雪買に沽はや鶴の雪
  清水修行にとまりて
むかしたれ雪の舞台の日の気色
  知恩院町に宿とりて
初雪にまくすかはらの妾かな
  大津 まつもとにて
雪の日や船頭とのゝ顔の色
  ひらかたの宿にて
馬かたに貧きはなし雪の宿
  寒山のさん
ねる恩に門の雪はく乞食哉
  西運寺興行
初雪に人ものほるか伏見舟
我雪とおもへは軽し笠のうへ
はつ雪や赤子に見する朝朗
はつ雪や雀の扶持の小土器
  門といふ字を得て
馬に炭さこそはたゝけ雪の門
  矮屋
窓銭のうき世を咄すゆき見哉
  官城御普請成就して諸家
御褒美給はりける比
陪臣は朱買臣也ゆきの袖
  芭蕉空庵をとひて
衰老は簾もあけす菴の雪
門の雪樒ありやととはれけり
  山居の僧に
雪を汲て猿か茶を煮けり太山寺
  かも川に一むれとよみたるを
釈迦とよふ頭も雪の黒木かな
  ちゝれかみなる女のあた名
  にやいとけうさめたり
  酔吟
雪うちややり手をかへす小忌衣
  望叡山
薄雪や大の字枯る山の草
戸障子のおとは雪也松の声
かはかうや竹田へ帰るゆきの暮
  遊女土佐をむかへたる
   人にうとく成て
黒塚の客あしらひや閨の雪
  立徘徊
はつ雪や内にゐさうな人は誰
めつらしい物か降ます垣ねかな
鴨川の鴨を鉄輪に雪見かな
  或御方より雪見にむかへさせ
   給ふ馬上吟
初雪に牧やえられて無事なやつ
  楠の銅壺四間に一間とかや
   万客の唇をうるほせは
はつ雪や湯のみ所の大銅壺
  もとすみた川と云わたりにて
半衿の洲崎もありや雪の松
  人も来ぬ夜の独酌
初雪や十に成子の酒のかん
軍兵を団炭てまつや雪礫
松の雪蔦につらゝのさかりけり
  前といふ字て雪の句
叡覧の人になりつゝけふの雪
初雪は盆にもるへきなかめ哉
  出口にて
きぬ_に犬を払ふや袖の雪
  すてゝあるといふ小歌を
   句の題にして
おもはめや捨てあるかは雪の宿
  市中閑
初雪や門に橋ある夕間くれ

不分当春作病夫
酒ゆへと病を悟るしはす哉
極月十日西吟大坂へのほるに
いそかしや足袋売に逢うつの山

新堰にて食くふやうに師走哉
餅花や灯たてゝ壁の影
餅と屁と宿はきゝわく事そなき

やりくれて又や狭莚年のくれ
書出しを何としはすの巻柱
  座右銘
行年や壁に恥たる覚書
乳母ふえてしかも美女なし年忘
鰤荷ふ中間殿にかくれけり
  のり物の中に眠沈て
年忘レ劉伯倫はおふはれて
  震威流火しつまりて
妹か子や薑とけて餅の番
煤掃てねた夜は女房めつらしや
  京に春をむかゆる年
  おはらの賤に問事あり
行幸の牛洗ひけり年の暮
  臘兎五ツ子を産り樊中に
  やしなはれて若艸にかけらん
事をいはひて
年をとる兎に祝へ熬ぬ豆
すゝはらひ暫しと侘び世捨蔵
童にはしころ頭巾や煤はらひ
忠信か芳野仕廻やすゝはらひ

有かたき親の悋気も師走哉
  閑窓に羽箒をめてゝ
煤こもりつもれは人の陳皮哉
鼻を掃孔雀の玉や煤こもり
  御煤ノ翁ハ竹取

千山宅とし忘に
割すそや八乙女神楽男より
  楊屋に酔房して
恋の年差紙籠をさらへけり
年の市たれをよふらん羽織との
小傾城行てなふらんとしの昏
山陵の壱分をまはすしはす哉
  女子の疱瘡しける家に
    きけんとりて
餅の粉や花雪うつる神の笑
  行露公万句御興行巻軸
万代の〆をあけけり神楽帳
  市隅
弱法師我門ゆるせ餅の札
鳩部屋の夕日しつけし年の昏
梟よ松なき市の夕あらし
  自悔 三十
子をもたは幾つなるへき年の昏
  大津駅
千観の馬もせはしやとしの暮
  雪窓
損料の史記も師走の蛍かな
年の瀬やひらめのむ鵜の物思
行年や貉評定夜明迄

 

参考文献
昭和56年.桜楓社刊.今泉準一著『五元集の研究』
平成8年.春秋社刊.今泉準一著『其角と芭蕉と』
平成6年.勉誠社刊『宝井其角全集』

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