『五元集』 夏 の 部  へ|へ|へ(只今未整理増補中)

   芭蕉の自画十三懐周之讃
  師の坊の十年しはし柳陰  

  若鳥やあやなき音にも時鳥 

  有明の面起すやほとゝきす 

  淀舟や犬もこかるゝ郭公  

  夜這星鳴つるかたや子規  

 

  官城
歴々や下馬の折ふし時鳥

  河東
川むかひたか屋敷へか子規

鵺啼や此あかつきを郭公

暁の氷雨をさそふや郭公

  百間長屋にて
時鳥人のつら見よ下水打

子規一二の橋の夜明かな
阮咸か三味線しはし時鳥
  傾廓
時鳥あかつき傘を買せけり
  亦打山
夜こそきけ穢多か太鼓鵑
きぬ_の用意か月に時鳥
寮坊主のまねは淋しほとゝきす(頭注、盧山雨夜)
  宰府奉納
ほとゝきす鳥居_と越にけり
  林中不売薪
せになくや山時鳥町はつれ
  さる江という村にて
くらふ山材場の日陰や時鳥
梺寺五加かおくをほとゝきす
  曲終人不見
暁の反吐はとなりか郭公
時鳥われや鼠にひかれけん
子もふます枕もふます時鳥
  母におくれ侍りてたのみ
  なきゆめのみ見る暁
夢にくる母をかへすか郭公
枳風かつまを供して
  あたみへ行とて
馬の間妹よひかへせほとゝきす
  桑名にて
蛤のやかれて啼やほとときす
それよりして夜明烏や郭公
点滴を硯に奇也ほとゝきす
人間の四月にふけれ郭公(頭注、白文)
時鳥茄子も三ツの小籠哉
う月十七日ある人の愛子に
   ねたり申されて
郭公幟そめよとすゝめけり
月消て腰ぬけ風呂や郭公
六阿弥陀かけて鳴らん子規
  浅艸寺樹下
虫つかぬ銀杏よらん郭公
葉に成て画れぬ梅や郭公
ほとゝきす只有明の狐落
時鳥人を馳走に寝ぬ夜哉
目の上に目をかく人や子規
  夢昼
砂は目にね覚を洗へ郭公
  姉か崎の野夫忠巧孝心を
  きこしめされて禄を給はり
  たる事世にきこえ侍るを
起てきけ此時鳥市兵衛記
仏さへこの世間はくるしきに
しらてやけふは生れ出けん
麦飯や母にたかせて仏生会
  風光別我苦吟身
大酒に起てものうき袷哉
越後屋にきぬさく音や衣更
一ツとろに袷に成や黒木うり
  卯月八月母におくれて
身にとりて衣かへうきう月哉
  慈母墓
花水にうつしかへたる茂哉
  上行寺
灌仏や捨子則寺の児
  若葉句合に
年寒しわかはの雲の朝ほらけ
殿つくり並てゆゝし桐の花
  夕のはなふさ
うかれめや異見に凋む夕杜(牡)丹
いにしへのならのみやこの牡丹持
  河州観心寺
楠の鎧ぬかれしほたん哉
  筑前紅を
しらぬ火の鏡にうつる牡丹哉
  雨意 艶士にめてゝ
八専をうつゝに笑ふほたん哉
  池田の海棠子肖柏の行状を
  あつめて集あめるに
さゝはうし角に火ともすふかみ草
  下洛卯月の中の一日
隠岐殿のかへり見はやせ鏡山
  朝叟百里全阿甫盛等
  上京の時三十三句の吟席也

  宝永開元奉幣使
   御代参の人の家にて
とした気て伊せ迄誰か衣かへ
  屏風に藤房卿往すつるの所
迷ひ子の三位よふ也時鳥

  長崎屋源左衛門家に紅毛来
  貢の品_奇なりとして
桐の花新渡の鸚鵡不言
  愛娘子
鶏啼て玉子吸蚊はなかりけり
序令初めて上京に餞
涼み迄都のそらや連と金(頭注、揚州鶴)
  護国寺にあそふ
水漬に泪こほすや牡(杜)若
かきつはた畳へ水はこほれても
紫の蛛もありけりかきつはた
簾まけ雨に提来る杜若
  奉納
から衣御影やかけて杜若
  田家
早乙女に足あらはるゝ嬉しさよ
汁鍋に笠のしつくや早苗取
  木賀入湯のころ
しはしとや早苗より見る寺の門

袖裏や茄よりけに白くゝり
舟歌の均しを吹や夕若葉
卯花や蠣から山の道のくま
うの花やいつれの御所のか茂詣
  寄幻吁長老
老僧の筍をかむなみた哉
笋よ竹よりおくに犬あらん
竹の屁を折節聞や五月闇
笋や丈山なとの鎗の鞘(頭注、腰下無寸鉄)
  素堂居
艸の戸は皆喰ものそ夏の艸
  楓子居
夏艸や家はかくれて御用茅
夏草や橋台見えて河通り
目通の岡の榎や簗さかひ
吐ぬ鵜のほむらにもゆる篝哉
鵜につれて一里は来り岡の松
争はぬ兎の耳やかたつふり(頭注、画興)
  戸塚越侍るに
鰹荷の後は己日の道者哉
帆をおろす舟は鰹か礒かくれ
夕塩や客の間にあふ中ふくら
  しらすか通る時
世中をしらすかしこし子鰺うり
酢鮓の鱧なつかしき都哉
  和重餞に
伊せにても松魚なるへし酒迎
こよろきの名は昔にてうづは哉
  呈露江公餞
箒木や人馬へたつる五月雨
さみたれや是にも外を通る人
顔ぬくふ田子のもすそや五月雨
さみたれや富士の煙の其後は
五月雨や傘につる小人形
さみたれや酒匂てくさる初茄子
  厳宥院殿の大法事を
  東叡山に拝み奉ル
五月雨の雲も休むか法の声
  市駅吟
馬舟とわかる鰹やけいは組
花あやめのほりもかほる嵐哉
  公門に入時
あやめわく明り障子のみとり哉
銭湯を沼になしたる菖かな
  けふもけふあやめもあやめ
  かはらぬに宿こそありし
  やとゝおほえね 住なれし
  所へたてゝよめりと伊せ大輔
  家のしうに見え侍る
菖こそ蛙のつらにあやめ哉
  此友や年をかくさす白鬚
  二毛の身をわすれて松との
  太郎との也けりとのゝしれは
  今の人形の風俗ことさらに
  小兵衛なといふ人形はなし
我むかし坊主大夫や花菖
  五月三日わたましせる家にて
屋根葺と並てふける菖哉
あひしれる女の塔の沢に入て
ふみこしたるに
山笹の粽やせめて湯なくさみ
艸の戸やいつ迄草のかひ粽
本つゝし夕へをしめて菖哉
  五月十三日
雨雲や竹も酔日の人あつめ
藻の花や金魚にかゝるいよ簾
  酒満
葛のはの酒典童子も二面
  青嵐といふ題を
海松の香に杉の嵐や初瀬山
蝙蝠の屎も子になれあやめ草
交代の葉守の神や初柏
疱瘡のあとは遙に幟哉
  緑槐高処
はつせみや笛に袋を十文字
かたつふり酒の肴に這せけり
鎌倉やむかしの角の蝸牛
たのめてや竹に生るゝかたつふり
文七にふまるな庭のかたつふり
  河原町にて
妾か家ほたるに小歌告やらん
  宇治にて
川くまや水に二重のほたる垣
  うつせみの絵に
夏虫の碁にこかれたる命哉
  谷中
風ふかぬ森のしつくやかんこ鳥
  僧正か谷
侘しらに貝ふく僧よかんこ鳥
下やみや鳩根性のふくれ声
  露江公溜池の高閣に
  はしめて涼を挽とき
  当座とおせ(ママ)ありけれは
夏山に我は御簾とる女哉
蓮生は歌はよまぬを虫払ひ(頭注、宇都宮入道)
樟脳に代をゆつりはの鎧かな
よめりせし時の枕か土用ほし
捨人や木艸にかけて土用ほし
浴衣着て瓜買に行袖哉
狙公 溜池にて
瓜むいて猿にくはするあつさ哉
水飯にかはかぬ瓜のしつく哉
干瓜やうつむけてほす蜑小舟
瓜の皮水もくもてに流れけり
  亀毛に餞
瓜の皮笠は重シとかさねけり
  破扇の図
維光か後架へ持し扇哉
烏飛紺のあふきのあつさ哉
紅にうちはのふさの匂哉
せみ啼や木のほりしたる団うり
隣から此木にくむやせみの声
竹のせみさゝらにしほる時も有
水うてやせみも雀もぬるゝ程
白雨や内儀たま_物詣に
  市中白雨といふ題
鳶の香も夕たつかたに腥し
白雨やもりをとむれは鼠の子
ゆふたちに鶯あつく鳴音哉(頭注、うくひすとのみ)
夕立にひとり外見る女かな
  牛島三遶の神前にて
  雨乞するものにかはりて
夕立や田を見めくりの神ならは
   翌日雨ふる
  舟中吟
さゝかにの筑波鳴出て里急き
西行と武蔵坊には清水哉
芋のはに命をつゝむし水哉
にんにくの跡か清水の心かな
土用のいりといふ日の吟也
箒木に茄子たつぬる夕哉
  烏山へおもむく人に
青柳やつかむ程ある蚊の声に
夕かほや白き鶏垣根より
鴫焼は夕へをしらぬ世界哉
麻村や家をへたつる水車
  或人の従者参宮しけるに
  はなむけすとて
夏の夜を吉次か冠者に恨哉
夏の夜は寐ぬに疝気の起けり
  生死去来
烏行蚊はいつくより暮の声
  捕虎 東坡
七ッ毛の蚊にくるしむや足疾鬼
蚊柱にゆめのうき橋かゝる也
蚊をやくや褒_か閨の私語
かやり火や蚊屋つる方に老独
  更閑
石灯籠蚊屋に消行鵜舟哉
  いきけさにずてんどうと
  うちはなされたるかさめて後
切れたる夢は誠か蚤の跡
  旅店
富士の雪繩は酒屋に残りけり
ある人大なるふくへを二に引
  割て盞とし外は地さひのまゝ
内は朱に塗てわに口にむら鵆
をかゝせて句をのそむ
清水影李白か面にかふりけり
   形目鼻なきめんのやう也

  浅草河歳々吟涼
此人数舟なれはこそすゝみ哉
川涼み顔に泥ぬる詠かな
涼みつむ安房や上総に舟はなし
すゝしさや帆に舟頭のちらし髪
舟暑し覗かれのそく闇の顔
千人か手を欄干や橋すゝみ
涼しさや先武蔵野の流星
  韓退之捨酒吟あり
酒ほかす舟をうらやむ涼み哉
  こまかた
此碑ては江を哀まぬ蛍哉
  牛御前
是や皆雨を聞人下すゝみ
  橋上休老といふ題に
牛泥む老の歯かみや橋すゝみ
舷を玉子てたゝくすゝみ哉
海を見て涼む角あり鬼瓦
  餞久松粛山
筆をさす御笠やかろき下涼
  人の子をめてゝ
涼しいか寐てつむり剃ゆめ心
  画讃
大虚涼し布袋の指のゆく所
  日枝にむかひ給ふ御神を
十八の明神つねにすゝみ哉
河原にて
暁を牛さえすゝみ車かな
此松にかへす風あり庭すゝみ
勘当の月夜に成し涼み哉(頭注、遊子残月)
  暑字 行露公にて
むら雨の木賊に通る暑さ哉
  呈餞 露江公
供かたの鞘の暑さや岡の松
人に又暑い顔あり端涼み
  自棄
たか爲そ朝起昼寐夕すゝみ
  五月十日雷雨永代島の
  茶店にやとりして
明石より神鳴晴て鮓の蓋
住吉にて西鶴か矢数誹諧
せし時に後見たのみけれは
驥の歩み二万句の繩あふきけり
七十余の老医みまかりて弟子
  ともこそりてなくまゝ予に追
  善の句を乞けるその老医の
  いまそかりける時さらに見し
  れる人にもあらす哀にも
  おもひよらすして古来稀
  なる年にこそなといへととかく
  ゆるささりけれは
六尺も力おとしや五月雨
  村田忠菴か事也
  年々の春秋武江の寺社に廻
り給ふなる霊仏霊神君を
守りのあとしめて興廃の御
威現あらたなる中にも当
時の開帳はさかの御てらと
札をうたれて官駕鄙馬のさ
かひに暑をなやます霍
乱虫気のさはりもなく蟻の
ことくにまふてつたふ行程の
遠近を辻番にたつねて
まはらは廻れ振舞水の下向道
  祐天和尚に申す
夕顔にあはれをかけよ売名号
  昼顔に米搗涼む哀也
  故翁の句を絵にかゝせて讃
  のそむありその絵は夕_
  の花を書たり句とたかひ
  侍るゆへ自句を書侍る
夕顔や一臼のこす花の宿
  逐欧陽公賦
繩の子の兄に舜なき憎さ哉
  画讃
蟷螂の小野とはいはし車百合
子の肩とみつわくむ也夏旱(頭注、市中労)
魚市涼宵
楊貴妃の夜は活たる鰹かな
  七月七日悪夢を感して
  東湖の弁才天に詣侍るに
出ぬ茶屋に欺かれても蓮哉
荷切や下手にし切は茎を角
歌仙貫之の古画に
冠にも指をそふめり歌の汗
青流亡妻をいたみて
園女とはこれや此世を夏の海
上下と裸の間を夕すゝみ
  ある御方よりあさかほ書
  たる扇にさんせよとあり
舜や扇のほねを垣根哉
  と書て奉けるにかさねて
  また軍絵かいたる扇に
  さん望ませ給ふ再は申かねて
涼風や与一をまねく女なし

  鬼のやうなる法師みちのくへ
  くたるとて道祖神にとかめられ

  異例して何かしのもとに
  介抱せられ漸生のひて心よ
  はき文とも送られしかへしに
弁慶も食養性や瓜畠
瓜守や桂の生州たえてより
  越前の人の土産をめてゝ
  光広卿のうたをおもひ合侍り
鰹哉先まなはしを袖て拭
  元角田川牛田といふ所にて
いそのかみ清水也けり手前橋
  湖舟餞に酒たうへて
貫之の鮎のすしくふわかれ哉
はなんけの一句を扇に望れて
生の松はらのうたをよす
木曾路をや涼しき味をしられたり
  市原にて
虫はむと朽木の小町干れたり
手にとるも林檎は軸て面白し
百日のあゝら恋しや洗ひ鯉
皿鉢に駒のけあけや心てん
乳のめは清水かもとの祭哉
  七日
鉾にのる人のきほひも都哉
  山王の氏子として
我等まで天下祭や土くるま
番附をうるも祭のきほひ哉
松原に田舎祭や昼休み
夏痩に能因しかも小食也
乞食哉天地を着たる夏衣
  高閣挽涼
香需散犬かねふつて雲の蜂
蝙蝠に宇治のさらしや一曇
 蟹をもてなす人に
うき舟の涼しき中へかにの甲
ねてかとへ蓮にさそふ朝朗
  大雨大風
吹降の合羽にそよく御祓哉


     

 

参考文献
昭和56年.桜楓社刊.今泉準一著『五元集の研究』
平成8年.春秋社刊.今泉準一著『其角と芭蕉と』
平成6年.勉誠社刊『宝井其角全集』

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