『五元集』 春 の 部  へ|へ|へ(只今未整理増補中)

   四十の賀し給へる家にて
  御秘蔵に墨を摺せて梅見哉   

   遊大音寺
  んめかゝや乞食の家も覗かるゝ 

   加州小松観音寺奉納
  梅の花旦那を待て庭にあり   

   芭蕉翁の沙弥かけものほしかりて絵讃を乞けるに
  せめてもの貧乏柿にんめの花  

   
  進上に闇をかねてやむめの花

 

  不曲亭
あせを越目あても梅の匂哉

こつとりと風のやむ夜は藪の梅

なつかしき枝のさけ目や梅の花

  宰府奉納
守梅の遊ひわさ也野老売

  和心水推敲の句
たゝく時よき月みたり梅の門

  梅津氏の祖父大坂
  表の軍功によりて
  御感状御太刀を頂戴
  せらる、正月十七日の朝とかや。
  佐竹・上杉・蜂須賀等の家臣
  十七人と也。家の風相つたえて
  今も正月十七日鏡開の興行
  あり。其雫家督執権として
  此春の賀会有。
幡持を文台脇やむめの花

元日真珠喰あてし人の
旬を祝へといふに
夜光る梅のつほみや貝の玉

  仙石壹岐守との正月五日に
  身まかり給ひぬ玉芙公に
  御悔申上侍るとて
外様迄手向の梅を拝みけり
  元禄十四年二月廿五日
  聖廟八百齢御年忌於
亀戸御社詩歌連誹令
  興行一座
梅松やあかるむ数も八百所
 氷肌玉骨とかや
昔見し花にも香にも梅の皮
  久松粛山亭にて
梅寒く愛宕の星の匂かな
八百のかねて迷や闇のんめ
  芭蕉菴をとひて
鶯や十日過ても同しんめ
うくひすに薬教ん声のあや
腕押のわれならなくに梅の花
箒木のゐくいは是にやみの梅
鶯の身を逆にはつねかな(頭注、止丘隅)
うくひすよいて物みせん杉鋏
  茶臼にとまりたる絵に
鶯や氷らぬ声をあさ日山
  茶杓にとまりたる絵に
うくひすの曲たる枝を削けん
鶯に罷出たよひきかへる
うくひすや遠路なから礼返し
  市隅
竹と見て鶯来たり竹虎落
雀子やあかり障子の笹の影(頭注、とひあかりしや
うしといふらん)
長嘯の記に浅草の観音
とて国ゆすりてもてなす
仏をはす口にまかせて
  いかなれや野辺に刈かふあ
  さくさのくはんをむまのはみ
  のこしつる其時をおもひて
土手の馬くはんを無下に菜つみ哉
  正月巳己布施の弁才天へ
  詣侍る奉納
玉椿昼とみえてや布施籠
  梅津硯水会に
窓をやれと梅ほころひぬ大家中
  正月廿一日冠里公に侍座
菜刻みの上手を握る蕨かな
  接木を画て
来ませるの申継とや見えつらん
  十一日
お汁粉を還城楽のたもと哉
景清か所帯みせぬや二薺
  漸覚春相泥という切句
削かけ膏薬ねりの鼻にあれ
畠から頭巾よふ也わかなつみ
  二人しつかのかけ物に
なつみ哉扇二つをとふこてふ
百人の雪掻しはし薺ほり
  万葉しうにも朱雀の柳と
  侍り所からのけしきを
たひらこは西の禿に習ひけり
とはしりも顔に匂へる薺哉
七種や明ぬに聟の枕もと
なゝ艸や跡にうかるゝ朝烏
砂植の水菜も来たり初わかな
渓辺双白鷺
沐ふ鷺芹梳る流かな
うすら氷やわつかに咲る芹の花(頭注、河州八尾娵そしり)
一升はからき海より蜆哉
石一つ清き渚やむき蜆
白魚や海苔は下辺の買合せ
行水や何にとゝまるのりの味
白魚や漁翁か歯にはあひなから
白うをの薈にあかるひはり哉
陽炎や小磯の砂も吹たてす
  したしき友に
こなたにも女房もたせん水祝
  衆鼠入懐の夢をひらきて
引つれて松をくはゆる鼠かな
宝引に蝸牛の角をたゝく也
帯せぬそ神代ならまし踏歌宴
  難波人福の神を祈りて七人か
  句を奉る中に大黒殿をい
さめ申せとて樽ひとつ送られたり
年神に樽の口ぬく小槌かな
  三月正当三十日
山吹も柳の糸のはらみ哉
梟にあはぬ目鏡や朧月(頭注、画成)
種かしや太神宮へ一つかみ
舞鶴や天気定めて種下し
  格技絵馬合に
ことし斯螽ふえたり稲荷山
   禁固ヲ破リて暇ヲ玉ハル也
破や見憎い銀を父のため
やふ入やそれはいなはの是は星(頭注、待としきかは)
  故赤穂城主浅野少府監長矩之旧
  臣大石内蔵之助等四十六人同志異体
  報亡君之讎今茲二月四日
  官裁下令一時伏刃斉屍
万世のさえつり黄舌をひるかえし
肺肝をつらぬく
うくひすに此芥子酢はなみた哉
  富森春帆大高子葉神崎竹平
  これらか名は焦尾琴にも残リ
  聞えける也
  点印半面美人の字を彫て琴形
  の中ニ備ヘタルをはしめて冠里公の
  万句の御巻ニ押弘め侍るとて
春の月琴に物書はしめ哉
  悼後ノ立志 初音は女也
昔かな初音三井寺夢の春
  題水
ちくま河春行水や鮫の髄
  画賛
拾得の鳳巾にからむや玉箒
爰にけふ御馬水かへ水間寺
  奉納
金柑や冬青にさしても稲荷山
藪入や一つはあたるうらや算
やふ入や牛合点して大原迄
元禄丙子のとしむ月末つかたに
  浅茅かはら出山寺にあそひ侍り
  畠中の梅のほつえに六分斗
  なる蛙のからを見つけて鵙の
  草茎なるへしと折とり侍る
草茎を包む葉もなき雪間哉
蝸牛豆かとはかり柳かな
  御忌
人の世やのとかなる日の寺林

本多総州公にて
春の夜や草津の鞭のゆめはかり
  浅艸川泛舟
河上は柳かんめか百千鳥
柳には鼓もうたす歌もなし
欄干や柳の曲をつたふ狙
  市川才牛追善
   一子九蔵名をつき侍るに
塗顔の父はなからや雉の声
  菜苑
黒胡麻てこゝをあへぬか土筆

春雨やひしきものには枯つゝし

  等躬あいさつ
闇の夜のをりないかとは梅の袖
  新三十三間堂
若艸やきのふの箭見も木綿うり

青柳に蝙蝠つたふ夕はへ也
  柳上鷺の図に
さかさまに鷺の影見る柳哉
傾城の賢なるは此柳かな
  春雨
綱か立てつなか噂の雨夜哉
此雨はあたゝかならん日次哉
  二月十五日上京発足
西行の死出路を旅のはしめ哉
渡し舟武士は唯のる彼岸哉
  仏若シ大晦日に入滅し給はゝ
いかに仏ともとんちやくす
ひきかゝる衆生のためには
  往生もふのものなるへし
仏とはさくらの花に月夜哉
山里の名もなつかしや作独活
初茸の盆と見えたり野老売
ところうり声大原の里ひたり
野鼠のこれをくふらんつく_し
竹の香や柳を尋ね蕗のとう
梅かゝや此一すしをふきのとう
  二月十七日原駅
富士の朧都の大夫見て誉ん
おほろとは松の黒さに月夜哉
  類焼の此辺鄙の居を問て
  一樽に玉子を送る人に
わらつとや雪の玉水十とよむ
  南都にあそふ 雨
傘や薪の夜のありとをし
  無車馬喧
夕日影町中に飛こてふ哉
  見獅子伶有感
てふしるや獅子は獣の君也と
蝶とふや猿をよひ込原屋敷
藁屑に花を見すてしこてふ哉
釈菜
聖堂にこまぬく蝶の袂哉
百とせはねるか薬のこてふ哉
  柳燕図
乙鳥の塵をうこかす柳哉
茶の水に塵な落しそ黒燕
  画さん
燕やろかき巣を曳几巾
階子からとふさに及ふつはめ哉
海面の虹をけしたるつはめ哉
傘に塒かさうよぬれ燕
飆やひはりあかれと夕日影
うつくしき顔かく雉の矩かな
人うとし雉をとかむる犬の声
  角田川にて
なれも其子を尋るか雉の声
海苔すゝく水の名にすめ都鳥
小田かへす鍬も柱やのこる雁
爰かしこかはつ鳴江の星の数
ちんは引蝦にそふる泪かな
帆柱のせみよりおろす雲雀哉
苗代や座頭は得たる畝伝ひ
たねおろし俵に渡す小橋哉
景政か片目をひろふ田螺かな
  みの路にかゝり侍るに
孫ともの蚕やしなふ日向哉
春雨や桑の香に酔みの尾張
  沾徳岩城逗留して
餞別の句なきを恨むる
  よし聞こえ侍りしに
松島や島かすむとも此序
  南村千調仙台へかへるに
行春や猪口を雄島の忘貝
  富士の絵にのそまれ侍り
三帆船は塩尻になるかすみ哉
小庭にうつしたる梅の小枝に
鵙の草茎を見出て人々に
  句をすゝめけるつゐて
梅の名をうたてや鵙のやとりとは
  いせの雲津を過侍る
  夕けとふ比に
馬出る子を待門や傀儡師
傀儡師阿波の鳴戸を小歌也

 四睡図
かけろふにねても動くや虎の耳
  三州小酒井村観音奉納
如意輪や鼾もかゝす春日影
  或お寺にねう比丘とて
  腰のぬけたるおはしけり
  住持の深くいとをしみ申
  されしに五つの徳を感す
能睡 煖な所嗅出すねふり哉
能忘 おもへ春七年かふた夜の雨
能捕 鶉かと鼠の味を問てまし
能狂 陽炎としきりに狂ふ心哉
能耽 髭のあるめおとめつらし花心
  自得
蝶を_て子猫を舐る心かな
足跡をつまこふ猫や雪の中
猫の子のくんつほくれつ胡蝶哉
  市間喧
つけ木屋の手なら足なら雨蛙

  遠遊酔帰の駕籠の内にて
春の夜の女とは我んすめ哉(頭注、かひなくたゝん)

  宰府参詣の舟中
菜の花の小坊主に角なかりけり
醴に桃李の詩人髭白し
鶏の獅子にはたらく逆毛哉
  王子曲水もよほされて
水呑を烏帽子にきせん岩つゝし
曙やことに桃花の鶏の声
花さそふ桃や歌舞妓の脇踊

伝え来て雛の宝や延喜銭
見てのみや盗まぬ雛は松浦舟
おはしたに木兎もあり雛座敷
雛やそも基盤にたてしまろかたけ
  三月四日雪ふりけるに
ひなやその佐野のわたりの雪の袖
段のひな清水坂を一目かな
折菓子や井筒に成て雛のたけ
雛のさま宮腹_にまし_ける
  永代島八幡宮奉納
汐干也たつねて参れ次郎貝
親にらむ比目を汐干哉
紀国の鯛つれて汐干かな
  対酌
もとかしや雛に対して小盞
曲水にあの気違は茶碗哉
菓子盆にけし人形や桃の花
曲水や筧まかする宿ならは

綿とりてねひまさりけり雛の_
くり言を雛も憐め虎か母
雛くれぬ人を初瀬の桟敷哉
緑豆の頭も白し桃の眉
順礼はよ所に拝むやとり合
  貝そろへを送られしに
蛤のしかもはさむか玉柳


行露公あたみへ御浴養の比
はなんけの句奉るへきよし
  仰ありて観遊の御書とも
  聞えけるに
脇息にあの花おれと山路哉
  露沾公御庭にて
寐時分に又みん月か初桜
縁からはこなた思ふや花の庭
地諷や花の外には松はかり
花見哉母につれたつ盲児
いさゝくら小町か姉の名はしらす
  黒谷にて
万日の人のちりはや遅桜
  仁和寺
いなつまのやとり木成し桜哉
  上野にて
浮助や扈従見に行桜寺
妙鏡坊より花送れしに
文は跡に桜さし出す使哉
  花中尋友
饅頭て人をたつねよ山桜
  一筆令啓上候と招れて
初桜天狗のかいた文みせん
友猿の友きらひすな花衣
  三月廿日含秀亭の
  山ふみに御供して
御近習や花のこなたにかたをなみ
  門柳塵をはらふ折ふし
  うくひす啼
御用よふ丁児かへすな花の鳥
矮屋妻奴の膝をいるゝのみ
なるに心まゝなる酒を呑て
傀儡の鼓うつなる華見哉
  石河氏宜雨公の山庄に
  美景をあつめて四方に四の
  風情をもてなし給へるに
二筋の道は角豆か山さくら
  護国寺にあそふ時
  馬にてむかへられて
白雲や花に成行顔は嵯峨(頭注、袁中郎面上有西湖)
  立君をあはれむ
されありく主よ下人よ花衣
  京よりくたる人にことつてして
花に遂て親達よはん都哉
寝よとすれは棒つき廻る花の山
山桜猿を放して梢かな
花折りて人の礫にあつからん
花は都物くるゝ友はなかりけり
  侍座
花にこそ表書院てお月代
花に来て都は幕の盛哉
華盛子てあるかるゝ夫婦哉
はな盛ふくへ踏わる人も有
世の花や五年已前の女とは
  目黒松隣堂にて
浮世木を梺に咲ぬ山さくら
  遊東叡山 三句
小坊主や松にかくれて山桜
八ツ過の山のさくらや一沈み
人は人を恋の姿やはなに鳥
  芳野山ふみして
明星や桜さためぬ山かつら
  折に殺生偸あり
あた也と花に五戒の桜哉
  行露公年々御庭の花を給り
  けることしおそかりけれは
花を得ん使者の夜道に月を哉
妓子万三郎を供して
その花にあるきなからや小盃
  酒のさかなにさくら花を
   たしなむ人に
下臥に漬味みせよ塩桜
  惜花不掃地
我奴落花に朝寐ゆるしけり
  雨後
さくらちる弥生五日はわすれまし
  上野清水堂にて
鐘かけてしかも盛のさくら哉
ちる花や踏皮をへたつる足の心
  日輪寺の僧と連歌のかた
   はらに対興して
花に酒僧とも侘ん塩肴
  一食千金とかや
津国の何五両せんさくら鯛
  辛未の春上野にあそへる日
  門主薨御のよしをふれて世上
  一時に愁眉ひそめしかは
其弥生その二日そや山さくら
花に鐘そこのき給へ喧嘩買
  上野御
わたり徒士見立る比の花見哉
  尋花
植木屋の亭主留守也花いまた
  湖春と清水に遊ひて
車にて花見を見はや東山
花笠をきせて似合ん人は誰
酒を妻妻を妾の花見かな
此雨に花見ぬ人や家の豆(頭注、王維山水寸馬豆人)
  永代寺池辺
池を呑犬に入あひ花の影
  甫盛はしめて上京に
花そ濃伊勢を仕まへは裏移
  大悲心院の花を見侍りて
灌頂の闇より出てゝ桜哉
茶もらひに此晩鐘を山桜
折とても花の間のせかれかな
沓足袋や鐙にのこる初さくら
明ほのゝ山鳥 (ママ) 桜かな
海棠の花のうつゝや朧月
小鳥居は葉守の神かつゝし山
月雪に山吹花の素顔よし
亦是より木屋一見のつゝし哉
藤咲て鰹くふ日をかそへけり
旦夕のはしゐはしむるつゝし哉
水影や_わたる藤の棚
心なき御影さんはに岩つゝし
よそに見ぬ石の五徳や藤の露
白藤を酢みそにつたふ雫哉
  浅艸川逍遙
鯉の義は山吹の瀬やしらぬ分

錦にも藤の虱は憎からし
  三月十二日含秀亭の花
  ことし百五十余種うへ添
  給へる下莚に侍りて
植足に三切の供や山さくら
  同しく入相
此_と花の名残や_扇
  秋航庭せゝりせらるゝに
たそかれた藤植らるゝ扇取
  竜樹菩薩の禅陀伽王に対して
  貪欲をしめし給ふにたとへは
  有瘡人近猛煙始雖悦後増
  苦の文のこゝろを
雁瘡のいゆる時得し御法哉
摩訶止観に
一目之羅不能得鳥得鳥之羅
唯是一目此文のこゝろを
鳥雲にゑさし独の行衛哉
  意馬心猿の解
立馬の曰は猿の華心
  雑司谷にて
山里は人をあられの花見哉
(頭注、槇のは白くあられふりせき入し水のおとつれもせぬ)
  わか三嘯公侍従になりて
  宝永二年三月廿七日に
  京使にたち給ふを祝して
藤波や廿七人草履とり

 

参考文献
昭和56年.桜楓社刊.今泉準一著『五元集の研究』
平成8年.春秋社刊.今泉準一著『其角と芭蕉と』
平成6年.勉誠社刊『宝井其角全集』

もどる