昭和50年代〜昭和末


連句の復興は「歌仙」の復興でありましたが、昭和の末までには現代連句を代表
する「歌仙」が実作されるようになりました。
次の2作品は、まずは連句リバイバルの水準を示す作品と言ってよいでしょう。

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■「歌仙 満天星(どうだん)」の巻
  =第一回連句懇話会賞「東京・義仲寺連句会」

初折
晩濤(ばんとう)や地に満天星の花幽か     水野  隆
 かつて樹たりし記憶透く春          わだとしお
鞦韆に水平線をひきよせて           別所 真紀
 貴人(あてびと)ひとり住む新開地      安宅 夏夫
ざらざらと月光首に巻く立夏          山地春眠子
 水鳴る谿の流し素麺             古池 淳嗣

液晶の青より蒼に変わるとき          村松 定史
 あかり窓より簪の降る                〃
きぬぎぬは風花となる雪をんな             紀
 八千年街ちて神迎へせむ               淳
地震(なゐ)ふれば万巻の書もおそろしや        紀
 秋銹びにける釣鐘の舌                隆
菊売つて市の牀几であぶら売る             淳
 月を揉みあふ産卵の鮭                紀
親と子の修羅場を出でて吹かれをり           夏
 焙烙で焼く塩ひとつかみ               春
バルトークの弦軋みつつ花の冷え            隆
 春の兎の穴に夕星(ゆうづつ)            春

名残ノ折
たんぽぽの酒を明るき窓に据ゑ             お
 かさこそかさとうたふ骨壺              紀
莨嗅ぎつつ使徒狩り終へぬ皇帝は            春
 赤き群盗紅の根を過ぐ                史
拭へども汗は目に沁む遠眼鏡              隆
 摩天楼にて旅信したため               夏
勝手知る留守をたづねん黒き猫             淳
 木の葉髪なり火を抱き立つ              お
朝の凍て千の切尖(きっさき)地に生ひぬ        紀
 波止場の坂をあやかしの列              史
白桃のひとつは月に罅割れて              お
 瞼の裏の芒かるかや                 隆

廃屋を焼く誰が昨日(きそ)を焼く匂ひ         お
 頬髭かゆき妻が長唄                 史
東京は車馬多くして落ちつけず             夏
 海苔好き鸚哥(いんこ)菫喰ふ犬           春
酒・清水・山葵・芥子菜・初桜             淳
 花背峠はかげろふのさき               お
 

       昭和56年4月18日首尾(於・青梧亭)
 
     『現代連句集』(平成4年5月30日発行「連句協会」)より

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■「歌仙 四季それぞれ」の巻
  =第六回連句懇話会賞 特別作品「西宮・かつらぎ」

初折
四季それぞれこの草庵の冬が好き       岡本 春人
 たしかに日脚伸びし昼風呂         阿波野青畝
水餅のかけらも共に沈みゐて             人
 Don't Knockとドアの貼紙        小倉 星女
噂立つ彗星と月出会はざる              畝
 露の尾花か尾花の露か               人

蓑虫の身をのり出してしまひけり           星
 見たことのなき恋のくづし字            畝
うき思ひ畳の筋目かぞへつつ             人
 団十郎の怖い大首                 星
ひよつこりと新内流し現はれて            畝
 舳を押して出す納涼舟               人
水煙の天女逆立ち舞ふならん             星
 鰈の目玉引つついてをる              畝
砂かぶり席へ横綱ずでんどう             人
 弥生も七日過ぎの月なり              星
伊勢参りかねたる花の旅仕度             畝
 獺の祭のあとのかげろふ              星

名残ノ折
春塵といふものはただ柳絮なり            畝
 壁新聞の糊ばなれして               星
剥げてゐるびんづる尊者膝を組む           人
 筍料理評判の良き                 畝
衣更博多献上きゆつきゆつと             星
 赤く燃ゆるはさそり座の星             人
円高をよろこぶ兄とかこつ叔父            畝
 カルテをちらと盗み見てをり            星
月洩りてそこにまします観世音            人
 虫行灯の消えなんとする              畝
秋風に豆腐ののれん二百年              星
 らくがき帳に括る2B               人

朝刊も夕刊も今日休みなり              畝
 鴨鍋の酔さめぬおばしま              星
五六戸のいづれも木地師ぐらしかな          人
 はるばると来る蓮如忌の輿             畝
いろせとぞ詠む二上の花霞              星
 田を打ち返す腰たしかなり             人


           昭和六十年十一月二十三日首
           昭和六十一年四月二日尾(文音)

※上記作品は、阿波野青畝主宰「連句かつらぎ」のグループで、
「連句も写生で」というのが青畝の主張であった。

『現代連句集』(平成4年5月30日発行「連句協会」)より





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